lily

特別掲載!LILYライブレポ

2ndアルバムレコ発ツアーファイナルを迎えたLILY。
オーディエンスと共に響かせた人間くさくも優しい20曲

 

▼LILYじゃない RIRYが高崎の寒さを笑い飛ばす

こういうことをするのが好きなバンドだったな。オープニングアクトを務めた"RIRY"が「Far away…Far away…」と歌うと、会場は微笑みで満たされた。2106年12月17日、外気は12℃と肌寒い中、三人のマジメなおふざけで火照った高崎club FLEEZ。ここでリリースツアーのファイナルステージを行うバンドがあった。

 

インディーズアルバム「Gene」を携え、8月から全国ツアーを回ってきた"LILY"。「デンデンしながらジンジンさせるよツアー」と銘打った本ツアーでは多くのライブをこなし、着実に成長を重ねて2016年12月17日を迎えた。

 

 

オープニングアクト後、幕が閉じられて暗くなった会場に淡々とセルフライナーノーツストーリーが流れる。YouTubeでも公開されており、何度も観た映像であっても、ここで、この熱気の中で観ると特別なものに感じられる。セルフライナーノーツストーリーの流れるディスプレイに釘付けのオーディエンスは、制服姿の学生から、LILYの親世代の方まで。LILYの人気の幅広さを物語る。

 

「二人称……主人公は"あなた"」というメッセージが当日限りの限定セルフライナーノーツストーリー第9話にて会場へと投げかけたかと思うと、幕が開き、ドライアイスの炊かれたステージがお目見え。赤くライトアップされた楽器の合間をぬって、パンチ(Dr)、橋倉(Ba)、そして福島(Gt)が登壇した。

 

さぁ、ツアーファイナルの始まりだ。

 


▼曲を聴いてほしい しっかりと唄い込まれる前半戦

演奏がはじまり、会場はさきほどよりも混み合いを増す。馴染みのお客さんが多いのか、1曲目から自然と挙がる手、それからクラップ・サウンドが生まれる。

 

「Darling
この夜を越えた先
報われるのでしょうか?…」(1曲目:『ダーリン』)

 

切ないサウンドと情熱的な歌詞が、開演を待ちわびたオーディエンスに沁み渡る。

 

ライトが客席側に向けられ、会場が少し明るくなった。ステージからもオーディエンスの顔が見えたのか、挙がる手をさらに高く挙げるように福島の大きな眼がさらに大きく剥き上がる。

 

「it’s time to leave」(2曲目:『ナロウナロウ』)

 

鬱屈した気持ちをぶっとばすパワーのある歌詞に合わせて高揚する福島に、パンチと橋倉も負けてはいない。フラッシュの点滅を橋倉は前に頭を振り、「楽しんでいこうぜ」と声を張りながらパンチはビートを刻む。スピード感のある伴奏に合わせてLILYの演奏も勢いを増す。

 

理想と現実の狭間でさまよう苦しみ(3曲目:『time won't tell』)や、「私」という誰にでもリンクするような弱さ(4曲目:『見えない鏡』)など、福島の描く必死に生きる人間たちのリアルな感情が歌詞となり、曲にのって響き渡る。

 

力任せに大声を張り上げるようなことはしない。"普通"に歌うだけでオーディエンスが手を挙げる。福島の発する一言一言を咀嚼して味わうかのようにオーディエンスはウン・ウンと頭を振る。哀愁の漂う音色や空気感が心に沁みる。"今日はしっかり曲を聞いて帰って"とでも言うかのように、5曲ぶっ続けで演奏は止まらない。

 

「触れて重ねて奥の方
心が軽くなったんだ
濁ったものを吐き出したとき
なにもかも忘れられた」(5曲目:『触れて重ねて』)

 

優しく物悲しさをまとう『触れて重ねて』を丁寧に歌う福島の口に合わせて、オーディエンスの口も自然と動く。

 


▼大人のLILY 緩急を楽しませる中盤

ゆっくりと進む6曲目:『片思い』を、女児に話しかけるように微笑みながら一言一言優しく歌い上げる福島に合わせて、パンチのドラムと橋倉のベースも優しく鳴る。スポットライトの当たる福島を、ただただ真っ直ぐ見て、曲に聞き入るオーディエンス。静けさを纏いながらも、まだまだ盛り上がれるぞとLILYに盛り上がるロックチューンを懇願しているかのようにも見えた。

 

しかし、まだまだオーディエンスを焦らす。やさしい6曲目から、次はムーディーなナンバー。

 

「どんなに心無い 言葉浴びせて あなたの心傷つけてみても
最後に虚しく なるのは私で
あなたの匂い 暖かさを 生々しく 思い出してる 」(7曲目:『赤紫』)

 

漏れるように歌われるネガティブなワードの数々が、逆にセクシーな世界観を創る。批難することで自分を正当化しようとしても、自分の弱さを感じるだけ。綴られる歌詞が痛々しくも、なぜか共感してしまうような説得力がある。

 

「君のいない狭い部屋
肩と肩が触れる距離で
話した未来はもう叶わないけど
きっと忘れない
窓からはオレンジの
空を映す光が射して
思い出を綺麗に染めるから
涙が溢れた」(8曲目:『1K』)

 

曲の温かさに包まれているような心地よさをオーディエンスは肩を揺らして表現する。歌詞の悲しさが醸し出す女々しさのせいか、別れた彼女のことを嘆きながら歩いた帰路のむずがゆさを想起させてくれた。歌う福島も、自然と柔和な表情に。しかし、この曲には笑顔がよく似合う。

 

別れのツラさに必死で耐えながらも嘆き泣く人間の裂けるような感情を綴った9曲目:『雫』や、「愛してる」の言葉が言えなかった後悔が生々しく綴られた10曲目『全部、いらないのに』が歌われている頃。オーディエンスの血液と意識は耳から入ってくるせつなげな曲たちを聴くのに全て注がれている。まさに直立不動・全身全霊。ステージ上のLILYも、息ピッタリでシンクロし、まさに会場内の全員が一つになった。

 


▼楽しい時間はあっという間 力強さと本音で魅せる終盤


微笑ましい日常を歌った『カバンの中に入る歌』(11曲目)や、気持ちや考えを伝えることで未来を拓こうとするポジティブな『手紙を書くよ』(12曲目)を歌い終えると、「早いな」と福島も思わず本音を漏らした。

 

本当に早い。あっという間に折り返し地点を過ぎてしまっていた。ちょっと曲調を変えて、まだまだ飽きさせないぞと言わんばかり。「手拍子は頭の上でやるんだ」と他バンドのパフォーマンスも真似したりして。吸収力、向上心、はたまた仲間へのリスペクト。LILYはまだまだ発展していく気満々だ。

 

力強いサウンドが実にLILYらしい。体を揺らす。頭を頷かせる。口ずさむ。一音一音にオーディエンスは反応を見せる。アップテンポな曲に"待ってました"と言わんばかりにオーディエンスもはしゃぐ。

 

高揚した福島のボーカルに引っ張られてか、パンチのドラムもいつもよりアップテンポのように感じた。自然と鼓動が早くなる。風が一気に吹き抜けるような爽やかなムードが会場を包む。

 

「遠く離れてる間に
募る思いが言葉になる
そばにいたくて
繋がっていたくて
今も君がここにいたこと
指や腕が覚えてるんだ
はなむけのうた
君がいた証」(13曲目:『遠く』)

 

「『会いたくなったりさ
胸が痛くなるのは
あなたを思うからなのでしょう」』
…面と向かって言えるのならば
こんな気持ちにはならないでしょう
季節が変わるころには
なにか変わってるかな?
それともあなたを見ても何も
感じなくなる日が来るのかな?
今はわからないけど」(14曲目:『季節が変わる頃に』)

 

前作「Cocoon」以前の人気チューンが続く。歌う度に深まる曲への愛情が、聞く度にこの曲を大きくしているんだなと感じた。袖がまくられ、拍手をするオーディエンスの手にも熱を帯びる。上州路を凍えさせる"からっ風"でも冷やせない熱い時間がそこにあった。

 

 

福島「怖くて怖くて仕方なかった。フリーズでのワンマンライブ。プレッシャーって出来もしないことをやろうとする時にのしかかってくるもので、出来ると自分自身で思ってなかった」

 

ケンカもした。メンバーに当たったことも。周りを信じられなかった。そうやって自身の過去への反省を福島は述べる。この日までの3人の苦悩は彼らにしか分からないのかもしれない。

 

福島「いつまでも真っ直ぐに愚直に、嘘くさいと思われることを心から歌っていくバンドでいようと思います」

 

会場を埋め尽くしたオーディエンスに改めて感謝の言葉を口にし、一気にラストスパートをかける。

 


▼さぁラストスパート 跳ねて、歌って、笑って

フィナーレに向けてアクセル全開だ。ハングリースピリットを泥臭く男臭く綴った15曲目『coin toss』。ハードなロックサウンドに合わせて、パンチのアフロも、橋倉の緑髪も乱れに乱れる。動物のような猛々しいパワーを真っ赤なライトが見事に表現した。

 

サポートメンバー谷田部のキーボードもいいアクセントだ。思えば昔は何でも1人でやりたがっていた福島が、キーボードを他人に任せていたのには少し驚いた。周りを信頼できる大人になった証拠、またLILYというバンドが成長した証拠なのかもしれない。

 

ラストの2曲で、オーディエンスのフラストレーションが爆発した。16曲目:『君の歌』に合わせてピョン・ピョンと飛び跳ねてみたり、17曲目:『スパイラル』では大きく手をあげて大きく口を開きながら「Wow Wow Wowow ……」の大合唱をしてみたり。

 

オーディエンスを最後まで休ませないLILYの煽り方にも脱帽した。跳ねることでさらに高く挙がる手を、もっともっと高く挙げるように福島は促し、オーディエンスもそれに応える。開演から90分近く経っても疲れを見せず、まだまだ暴れる。高崎に"音楽"を求めてやってくるだけのことはある。みんな、本当に音楽が好きなんだな。

 


「応援歌」をコンセプトにした歌を歌っているバンドが、オーディエンスに応援されていた。みんなが高く掲げるグーの拳を、パーで優しく包み込むようなLILYのステージ。今宵の勝負はLILYの勝ちだ。

 

▼絶頂のなかでのアンコール 情報解禁も盛りだくさん


虚無感を抱きながらも人の温もりを求める18曲目:『優しくなれなくて』、大切な人との繋がりの強さをしみじみと歌う19曲目:『いつも支えられていたんだ』。柔らかいムードの2曲を丁寧に心をこめてLILYは奏であげた。

 

福島「大切な人はこれほどまでに多くなりました。これからも大切にしていきたいと思います。」

 

アンコールも、終わって欲しくないと言わんばかりに大事そうに大事そうにオーディエンスは聴き入る。この日に賭けてきた三人の思いを1ミリも残して帰る訳にはいかない。

 

「抱え込んだ悩みで
笑えなくなるときには
くだらない話で
僕が笑わせるよ」(20曲目:『君の為の場所』)

 

それでも迎えた最後の曲は、笑顔で終われるお決まりのこの曲。ポップな伴奏に合わせて福島はギターを橋倉はベースを左右に振る。最後はオーディエンスを巻き込んで「ララララ〜ララ♪」の大合唱は、誰かの声ではなく、やさしくて温かいみんなの声で成る響きだった。

やっぱり、みんなLILYと一緒に歌いたかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*制作スタッフ*
撮影:さいちょー https://twitter.com/sai_cho_823
取材・文:田中利知 http://www.navy-p.com/

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