「Gene」
セルフライナーノーツストーリ



第8話「いつも支えられていたんだ」
28歳 福島拓也

3年と2ヶ月。
長いようで短く、楽しいようで辛く、進んでいるようなそうでないようなこの時間は、僕らを少し大人にした。
お前より年下だったパンチも、お前の歳を追い越した。

この頃やけに、昔のことを思い出す。
別になんてことのない、スタジオのことやライブの移動、車内での会話のことなんかを。
いや、別に今なにか大げさに変わったことなんかないんだけどさ。
ただちょっと、お前が生きていたらなんて言うかなって、そんなことを考えるんだ。

それにしても、時間って凄いよ。
どんなに悲しいことも、ちゃんと綺麗にしていく。
辛かったことを、美談に変えていく。
ちょっと怖いよ。
このまま、色んな痛みに慣れた気になっていくことが。
痛くなくなった訳じゃなくて、多分少しずつ”痛みセンサー”みたいなものがぶっ壊れていってるんだろうね。
それを"大人になった”って言うのかもしれないけど。
子供の頃は、転んだだけで泣いていたし、夜寝るときに一人じゃ不安だった。
色んなことを体験するうちに、人はどんどん”痛みセンサー”が鈍感になっていくのかな。

だから、お前が死んだときにどんな気持ちだったか、今じゃ思い出せないんだ。
「めちゃくちゃ辛かった」とか、言葉にすることは出来るんだけど、どれくらい胸が痛くて、どれくらい息が苦しかったか、忘れちゃった。
それが怖くてさ。
このまま人の痛みも心の痛みもわからないやつになっちゃいそうで。

死んだあと、そっちの暮らしはどんなんだい?
話によると、天国っていうのは辛いことも悲しいこともないみたいじゃないか。
幸せに、暮らしてるのかい?
こっちで出来なかったこと、思いっきりやれてるのかい?

…わからないけど、天国が悩みや痛みがない世界なら、俺はまだ行きたくないな。
だって、お前がいたことも、一緒に過ごしたことも忘れることになるじゃないか。
もしかしたら、大失敗だった初恋のことも、腹ペコで食べた焼肉のことだって忘れちゃうかもしれないだろ?
かっこつけたみたいになっちゃうけど、痛みって自分がここにいることの証明なような気がするんだ。
辛いってことは、誰かの心と繋がれるってことだと思うんだ。

今生きていること、誰も彼もが辛いと思う。
俺も今、辛い。
でも、もうちょっと、頑張って続けてみるわ。
お前のご両親と、約束したこともあるし。
内容?それはお前には内緒。

3年経った今でも、誰もお前のこと忘れてないんだぜ。
凄いよな。
なんか、ぐっとくるよな。
新しいメンバーも入ってさ、今俺らの鳴らす音、いい感じなんだぜ。
いつか武道館のステージに立つときは、お前のベース、下手側に置いておくからな。
一緒に行こうぜ。

おっと、話しすぎた。
めっちゃ 雨強くなってきたし。
そろそろ、帰るわ。

またすぐ会いにくるよ。

「…どんな未来が待っているだろう。いつか話そう。ねえ、大切な人。」
この一節が頭の中に浮かんだ。
きっと、そういうことなのだろう。
何も変わらない毎日を、少し変えることは、簡単だ。


 

 

 

いつも支えられていたんだ

作詞・作曲 福島拓也

 

通い慣れた街も駅も、この道も
映画のように見えた
あと何度この道を歩けるかな
同じ気持ちのままで

「あの頃」描いた「未来」に追いついて
今また「未来」描く
でも何故だろう
思い知るんだ
いつも支えられてたこと

終わりが来ること
始まること
ふいに怖くなったりするけど
選んだ道をこの足で
ちゃんと歩いていくよ

旅立ちだねサヨナラ
今はサヨナラ
帰る場所があるから
一人で歩き出せるよ
何度でも何度でも越えてゆこう
約束しようよ
「離れていても繋がってる」

思い返せばいつだって守られてた
振り返れば側にあった
ぶつかったことも
心配かけたことも
あなたがいてくれたから

“一緒にいる時間”だけが
絆の強さじゃないと思う
離れて初めて気づくことで
ずっと強くなれそうだよ

旅立ちだねサヨナラ
今はサヨナラ
帰る場所があるから
一人で歩き出せるよ
何度でも何度でも越えてゆこう
約束しようよ
「離れていても繋がってる」

会えない日々を数えてたら
次会える日が楽しみになった
思い出と呼べないような
些細なやりとりを
一つ一つ並べて歩いて行こう

旅立ちだねサヨナラ
今はサヨナラ
帰る場所があるから
一人で歩き出せるよ
何度でも何度でも越えていこう
約束しようよ
「離れていても繋がってる」

どんな未来が待っているだろう
いつか話そう
ねえ、大切な人