「Gene」
セルフライナーノーツストーリー


第6話「見えない鏡」
20歳 女性 専門学生

 

雨の匂いが好きだった。
小学生の頃の私は、お気に入りの長靴を履いて水たまりに入り、よく母親にしかられた。
訳もなくワクワクして、足元から産まれる水飛沫(みずしぶき)に、心が躍った。

いつからだろう?
雨が降ってもワクワクしなくなったのは。
水たまりを避けて歩くようになったのは。

いつからだろう?
笑うと心が痛くなったのは。

海水魚は淡水の中で生きられないと知った日からかもしれない。
水の中に、油が混ざれないことを知った日からかもしれない。
もしかしたら、コウモリは鳥の仲間にも、獣の仲間にもなれずに夜を彷徨うお話を読んだ日からだったかもしれない。

いや、そのどれでもなく、その全てが私の中に、暗い暗い塊として蓄積されていったからなのだろう。

 淡水にいられなかった私は、大海を求めた。
水に混ざりたかった私は、透明になろうとした。
そんな私は、コウモリになった。
傷つけられずに傷ついて、人知れず夜の帳(とばり)に消えてしまいたいと思った。
でも、鏡に映る私は、コウモリではなく"私"でしかなかった。

本当になりたい"私"はどこにいるのだろう?
鏡に映る"私"は誰なんだろう?
鏡はいつだって、私の目に映る、都合の良い"私"しか映してくれない。
それなら、いらない。

床に落ちた鏡は、粉々に割れていた。
拾い集める指先から一滴、鮮血が流れた。
痛みと共に、生きていることが分かった。
"痛み"は生きている証拠なのかもしれない。
「その心の痛み、消さなくていい。」
そう言われた気がした。

次々と降り注ぐ槍のような悩みや辛さの存在理由を、今夜私は知った気がする。
いつか、心の中にある鏡に、笑った顔が映りますように。

何も変わらない毎日を、少し変えることは、簡単だ。

 

 

 

見えない鏡

作詞・作曲 福島拓也

 

また今日も私は 

小さな嘘をついた 

どうでもいいから 

小さな嘘をついた 

 

顔で笑って 

心は冷めていて 

“なんとなく”のまま

この命は終わるだろう

 

ゆらゆら吐き出す 

煙と一緒に 

私も消えてく 

 

“本当は泣きたい”

“本当は怒りたい”

本当にそう思う?

今はわからない 

このままじゃ 

「私」はいなくなるから 

その前に

その前に

その前に

 

また今日も私は 

誰かを突き放した 

嫌われる前に

嫌ってやった

 

惨めになること

言われる前から

知ってる

 

“本当は笑いたい”

“本当は繋がりたい”

本当にそう思う?

内側で声がする

このままじゃ 

「私」は消えてしまうから

その前に

その前に

 

救い出そう

心の奥で

下を向く

「私」を

 

「寂しくて泣きたくて

辛くて苦しい」

吐き出した本音は

“生きていたい”と聞こえた

 

無くしたものはまた

積み上げればいい

迎えに行こう

閉じ込めていた「私」を