「Gene」
セルフライナーノーツストーリー


第5話「coin toss」
23歳 男性 バンドマン


18歳 高校卒業バンドをやっていくと決心する
19歳 1枚目のデモ音源が好評で、事務所とレーベルが決まり、インディーズデビュー
20歳 インディーズ2枚目のCDを出して、ついにメジャーに行くことを発表
21歳 メジャーデビュー、タイアップも決まる
22歳 夏フェス出まくる
23歳 初の武道館

俺の予定だと、こんな感じで人生が進むはずだった。
実際、ひとつも果たせないまま23歳を迎え、明日、また一つ歳をとる。

クソ。
どこで間違えた?
本当にクソみたいな人生だ。
握手券付きのCDが何十万枚も売れてる時代に、俺の作ったデモなんて100枚売れてない。
バイトしながらアパートの家賃払って、少ない残りの金でスタジオに入る。
更に少なくなった金でライブのノルマを払って、明日の生活費削って打ち上げ代2000円を払って飲みたくもない酒を飲む。
クソみたいな生活だ。

「売れることだけが正解じゃない。」
「届くやつにだけ届けばいい。」
「それがロックだ。」

年上は決まってそう俺に言う。
黙れ。黙れ。黙れ。
何もわからないで、挑戦もしないで、分かったようなこと言ってんじゃねえ。

売れなきゃダメなんだよ。
届くやつにだけ届く音楽なんてオナニーと一緒。
ロックロックって、何回売れない事実をごまかしてきた?
なんでもかんでもロックとかバンドとか、そんな言葉にかまけてごまかすからライブハウスは怖いって言われるんだ。

結果、フロアにお客2人とかそんな状態でライブするはめになるんだよ。
いい加減、現実を見ろ。

…こうやって出来ない自分を棚に上げて、自分よりダメなやつを見下していた結果が、今の俺なのかもしれない。
結局、今の現実は正当な評価で、握手券付きのCDが何十万枚も売れるのは、沢山の人が関わって努力した結果じゃないか。
ってことは、その中心にいるアーティストは、みんなから期待されて、責任を果たせた凄いやつだ。
売れないバンドマンより、よっぽど凄いじゃないか。

負けるために生まれてきたような気がする。
裏切られるために期待してる気がする。
辞めちゃったら楽なんだって思う。
そんな心の弱さが、全部、ライブで出てる気がする。
一生売れないような気がする。

それでも。
諦められない自分がいる。
どうせダメなら、言いたいこと全部言って、やれること全部やって、それからだって遅くはないと思う。

その日、スタジオに入る前、ファミレスでノートを開いた。
今思っていることを全部書いてやった。
自然とメロディがついてきた。

この曲が売れるとは思わない。
でも、この曲が完成したら何かが変わる気がする。
根拠のない自信はいつだって自分の中から産まれてくる。

なけなしの金で、スタジオに籠る。
さっき書いた詞が、段々曲になっていく。
ふと時計を見たら、後5分で24時になる。
たぶん明日からも、こうやってバンドばっかりの毎日を生きていくだろう。
理想通りの毎日じゃないと思うと、少し苦笑いが出た。
何も変わらない毎日を、少し変えることは、簡単だ。

 

 

 

coin toss

作詞・作曲 福島拓也

 

結局いつか負ける為に

毎日戦っているのかな

結局いつか死ぬ為に

毎日を生きてるのかな


絶え間なく訪れる

“期待”や”未来”が

ギシギシ嫌な音を立てている

きしむ心臓が壊れる


苛立って誤魔化した

「勝ち負けが全てじゃない」なんて

嘘だって知ってんだ

負け続きの現状はうやむや


振り絞って出した答えは

簡単に捻り潰され

世の中嘆くのも馬鹿らしいってことに

気がついて口をつぐむ


絶え間なく訪れる

“絶望”や”悲しみ”が

この先止むことがないと分かった

黙っているだけ無駄だった


ならもう少しだけもがいて

負けたくないって叫んで

生きてみようかな

無駄だとしても


まだ衝突の裏側の

誰しも隠し持っているもんが

きっと

そこにはあるよ


苛立って誤魔化した

惨めな自分も共に連れて

信じて傷ついて

負け続けても

まだ目は死んじゃいない