「Gene」
セルフライナーノーツストーリー

第2話「ダーリン」
25歳 女性 キャバクラ嬢

バカ、バカ、バカ。
馬鹿ばっか。
キャバ嬢相手に本気になるな。
っていうか金出さなきゃ女と話せない男と本気で恋愛なんて出来るわけないじゃん。
どれだけイケメンでもイヤだし、どれだけ金持ちでも虫唾(むしず)が走る。
大抵口説いてくる男はイケメン崩れで女なら誰でもすぐヤれると思ってるヤツ。で、たまにあるのがキャバクラに目覚めるまでまともに恋愛してこなかったヤツ。
前者の対応は簡単。ヤらせないと分からせてあげれば良い。ヤれないと分かればそれ以上追っかけてこないし、最終的には急に連絡が取れなくなる。これはこれでイラッとするけどまあいい。実害がないから。
後者のパターン、これが始末に負えない。最近の体験談だと、本当に親切でいい人だったお客が、ある日突然暴走した。気持ちが一線を越えたみたい。「気持ちに応えないことは"悪"だ」みたいな逆ギレ、最終的には「期待に応えられないなら思わせぶりな態度を取るな!」だって。
いやいやいやいやいや。
冗談じゃないでしょ。
アンタの理想の女になるために毎日化粧して髪の毛巻いてる訳じゃないわ!
自分の想像を押し付けるな!
…あー、なんでこんなことになっちゃったんだろ。店の女の子たちもみんなギスギスしてるし、私生活も最悪。彼氏は妻子持ち。
所謂(いわゆる)不倫、というやつだ。
所謂ドン底、というやつだ。
別にいいけど、会うときは指輪くらい外してきて欲しいよね。してなきゃしてないでイラッとするんだけどさ。
こういうときの思考回路は素晴らしい。
指輪してなかったら最悪だし、指輪してたら最悪なんだから。
健気な女を演じるのも楽じゃない。
でも、惨めになるから態度には出さないようにしてる。それに、私が"重い"女になったら、あの人は離れていくに決まってる。そこそこの距離感で、秘密の恋愛を楽しむのがベター。だからいい。これでいい。
私だって、傷付くのは怖い。
代行とタクシーばかりが通るこの路地で聞こえる音は、支離滅裂(しりめつれつ)な酔っ払いの戯言(たわごと)と、キャッチのお兄さんの威勢ばかり良く中身のない声。
だから私は、イヤフォンを着けて歩く。
何も聞きたくないし、考えたくないから。
私は同伴予定の男に営業LINEを返しながら、うつむきがちに歩いていた。
だるい。
だるい。
だるい。
ほんと、馬鹿ばっか。
繁華街に差し掛かる手前の道。
まだここは物静かだ。
あと少しで交差点があり、その先に、"夜の街"がある。
"夜の街"の手前には、潰れかけたようなお花屋さんがある。
昼間はやってるのかな?私が通る時間に、シャッターが開いてるのを見たことがない。
今日は、そのシャッターの前が何やら騒がしい。
嫌な感じじゃなかったから、私は立ち止まりイヤフォンを片耳だけ外した。
ストリートミュージシャンだ。
よくやるよね、こんな時間に、誰も聴いてないのに。
なんとなく立ち止まってしまったから、私がお客さん第1号になってしまった。
気まずい。。
でも、この人の声とギターの音色、好きかもしれない。
なんて言ったらいいかわからないけど、放っておいてくれる感じがする。
「この夜を越えた先、報われるのでしょうか?」
「たとえどんな結末でも後悔はしない」
なんだこれ、私のこと歌ってるみたいじゃん。
なんなんだろう、この歌。
曲名知りたい。
声を掛けるかどうか迷っていたら、電話が鳴った。
同伴予定の男からだ。
やっば。もうこんな時間か。
男のことはどうでもいいけど、仕事をちゃんとこなすことが私のポリシーだ。
私は、一瞥(いちべつ)してその場を後にした。

たまにはイヤフォンを外して、歩いてみよう。
何も変わらない毎日を、少し変えることは、簡単だ。


 

 

ダーリン

作詞・作曲 福島拓也


Darling

この夜を越えた先

報われるのでしょうか?

どれだけ焦がれても

1番欲しいものは手に入らない



嫌な予感ほど当たるのは何故?

いつまでも来ない返事を待った夜明け前

強く想うほど嫌いになって

たった一言でまた好きになるの

この胸


「平凡な幸せ」

「胸痛める恋」

右脳と左脳で違う答えを出す


Darling

指先で確かめて

唇が触れ合って

抱き合って

何処にも行かないと

誓って欲しくて

Darling

この夜を越えた先

報われるのでしょうか?

どれだけ焦がれても

1番欲しいものは手に入らない



きっとこの想いに

気づいてるはず

"届いて"いるのに

"伝わらない"の

世の常


誰かの気持ちを

無視してきたけど

叶わない切なさ

今なら分かる


Darling

“出会えたのが奇跡”と

数ある歌にあるけど

愛した人の側にいられないなら

奇跡も辛いだけ



Darling

一人仰ぐ夜空に

答えなど無いけれど

瞬く星と同じように

身を焦がすと決めた


Darling

この夜を越えた先

報われるのでしょうか?

例えどんな結末でも

愛したことに

後悔はしない