「Gene」
セルフライナーノーツストーリー

第1話「スパイラル」
27歳 男性 サラリーマン

自分で言うのもなんだけど、そつなくこなす方だと思う。
勉強もそこそこ、顔もそこそこ、それなりに恋をして、それなりに人生を歩んできた。
昔は夢もあった。小1の頃、地元のクラブチームで始めたサッカーが思いの外楽しくて、いつのまにか本気になっていた。
高校にスポーツ推薦で入れたときには、誰にも言えなかったけど「日本代表」の4文字を密かに思い描いてた。
勿論、そんなに上手くいくことは無くて、終わってみればサッカーも”そこそこ”だったらしい。
人生、そんなものだ。
いや、”俺の”人生は、そんなものだ。
今だって、不幸な訳じゃない。
ちゃんと安定した職場に就職して、結婚して、去年子供も出来た。
他人様に言わせれば、”幸せな人生”で、”そこそこ”だなんて言ったら顰蹙(ひんしゅく)を買うこともよく分かっている。
だけどこの年になると、ふと思う。
怖がりながらも夢を選んでいたら、俺の人生はどうなっていたんだろうって。
まあ、サッカーばかりの人生じゃ今の嫁さんと出会うことは無かっただろうし、成功していた保証もない。
むしろ今頃足を壊して、就職も婚期も逃していたと思う。
これでいい、これがベストだった。
成功出来るやつなんて一握りで、それは俺みたいなそつない奴じゃなくて、もっと一箇所に突出した奴なんだよ。
周りの期待とかもプレッシャーに感じなくて、思った通りに進めるやつなんだろうな。
ああ、面白くない。
そんなことを考えていると、時間が経つのが早い。
気がつけば定時。
俺の仕事のいいところは、夕方には帰路につけること、ただこれだけだ。
職場から駅までの道のりには、目障りな場所がある。
忘れたい青春や夢に描いていた栄光が、フェンス越しにドンと構えている。
「上がれ!」
「もっとパス出せ!」
「ボール回せ!」
煩いくらいに怒鳴られていたことなんて忘れたいのに、今、懐かしく思うのは歳を重ねたからだろう。
そういえば、現役時代はディフェンダーだったから、シュート決めたこと一度も無かったっけ。
別にいいんだけど、さ。
俺には天職だったというか、性に合っていること、監督は分かってたんだろうな。
ふと、目障りな場所のフェンスの先に、誰かの忘れ物が見えた。
ボールだ。
いつもなら早く家に帰ってビールを飲みたいから、そんなものは無視だ。
でもどうしてだろう、ノスタルジーというやつには勝てない。
フェンスを越え、その目障りな場所に静かに佇む大きな鉄の塊の前に立っていた。
腰元に抱えたボールを地面に落とすと、それはまるで後悔を丸めた塊のように見えた。
「このシュートが決まったら、明日から何かが変わる。」
そんな自分ルールを設けたら、誰もいないグラウンドが急にピッチに思えて胸が高鳴った。

その日、俺は線路沿いを全速力で走った。
何も変わらない毎日を、少し変えることは、簡単だ。

 

 

 

スパイラル

作詞・作曲 福島拓也

 

同じように過ぎる日々を

誰も讃えちゃくれないけど

蹴り出したボールは

ゴールへ繋がるよ


見えない期待を背負って

姿が見えない敵と戦ってきた

誰にも言えない痛みを

紛らわせたくて

「大丈夫」

呟いてた


弱さ隠す強がり

強がりの先にある強さ

強さを優しさに

そうやって歩いてきた


同じように過ぎる日々を

誰も讃えちゃくれないけど

迷いながら信じてきた

疑いながら歩いてきた

同じような痛みを

抱える誰かに向かって

諦めず蹴り出せば

いつか必ず響くと信じて


理想と離れてく今を

認められないままでは

戦えないことに気づいたんだ


出来ないことを悔やんで

後ろ向いて暮らすより

何故“ここ”を選んだのか

思い出してみればいい 


同じように過ぎる日々を

誰も讃えちゃくれないけど

何度でも蹴り出すよ

そのパスが返ってくる日まで


後悔絶望重ねた

嘘や誤魔化しも飲み込んで

泥だらけになっても

諦めたくなくて泣いた

大事なものを捨ててきた

痛みを知った僕らには

綺麗事じゃ語れない

本当の夢が残っていた



同じように見える日々

実は少し違ってて

螺旋状に渦巻いて

少しずつ前へ進んで行く


迷いながら信じてきたものは

きっと裏切らないから

受け止めた思いを繋いで

蹴り上げるゴールへ